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東京高等裁判所 昭和62年(ツ)61号 判決 1988年5月12日

上告人

池田秀

右訴訟代理人弁護士

野村正勝

被上告人

有限会社神奈川システムセンター

右代表者代表取締役

問馬晃治

主文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。

控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人野村正勝の上告理由について

一被上告人が本訴において請求原因として主張するところは、(一)被上告人は、訴外西塚宏に対し、昭和五三年八月二三日、五〇万円を弁済期同年九月二二日、利息月九分、遅延損害金月九分の約定で貸し渡した、(二)上告人は、西塚の右借入金債務につき、保証の趣旨で連帯債務者となったが、その弁済期が経過した、(三)そこで、被上告人は、上告人に対し、上告人から弁済を受けた金員を利息及び遅延損害金に充当した後の右貸付金元本五〇万円及びこれに対する昭和五六年七月一八日から完済まで年三割六分の割合による遅延損害金の支払を求める訴訟(横浜簡易裁判所昭和五八年(ハ)第三四一号事件・以下「前訴」という。)を提起したが、その確定した控訴審判決(横浜地方裁判所昭和五九年(レ)第三七号事件判決・以下「前訴確定判決」という。)は、「上告人は、元本金五〇万円、弁済期昭和五三年九月二二日、利息月九分との約定で、遅延損害金については定めのない金銭消費貸借契約につき連帯債務者となったことに帰するところ、遅延損害金についても特約がない以上、約定利率に従い、利息制限法一条一項所定の利率に減縮されるから、その利率も年一割八分と認められる。」と判示し、前記既払い分につき充当計算のうえ、「上告人は、被上告人に対し、金四九万七一九二円及びこれに対する昭和五九年五月三〇日から支払ずみまで年一割八分の割合による金員を支払え。」と命じ、その余の請求を棄却した、(四)しかし、上告人は、前記遅延損害金の約定が現実に存在したことを知りながら、前訴において、被上告人の権利を害する意図のもとに、右約定がなかった旨の虚偽の主張をし、第一審の本人尋問において、宣誓のうえ、同旨の虚偽の供述をして裁判所を欺罔し、不正に前訴確定判決を詐取したものであって、現に、上告人は、前記控訴審判決後、被上告人に対して、前記訴訟での供述に虚偽があったことを自認し、年三割六分の割合により遅延損害金を支払う旨を記載した念書(甲第一、第二号証)を差し入れている、(五)被上告人は、上告人が詐取した前訴確定判決の既判力によって遮断されたため、前記遅延損害金の約定が存在することを前提とした弁済を受けられなくなり、損害を被ったところ、遅延損害金の約定が存在したことを前提にして、既払い分を法定のとおり充当計算すると、前記貸付金元本五〇万円及びこれに対する昭和五九年一〇月一五日から完済まで年三割六分の割合による遅延損害金が残存する結果となるから、これに相当する金額が上告人の前記不法行為による損害となる、(六)よって、被上告人は、上告人に対し、不法行為に基づく損害賠償として、五〇万円及びこれに対する昭和五九年一〇月一五日から完済まで年三割六分の割合による金員の支払を求める、というのである。そして、原審は、遅延損害金の約定の点を除き、上告人の被上告人に対する連帯債務が被上告人主張のとおりであること、上告人が、前訴(第一審)の本人尋問において、宣誓のうえ、右遅延損害金の約定がなかった旨の供述をしたことを確定したうえ、右遅延損害金の約定の有無及び前記念書の作成経緯について、民訴法三三八条を適用して、被上告人の主張を事実と認め、右事実に基づいて、前訴において、上告人が右遅延損害金の約定を否定する旨の供述をしなかったならば、右約定のあったことを前提とする給付が命じられたであろうことが明らかであるとして、被上告人の本訴請求を認容した。

二しかしながら、原審の右判断は、是認することができない。その理由は次のとおりである。

確定判決の成立過程において、訴訟当事者が相手方の権利を害する意図のもとに、作為、又は不作為によって相手方の訴訟手続に対する関与を妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔する等の不正な行為を行ない、その結果、本来ありうべからざる内容の確定判決を取得し、相手方に損害を与えたものであるときは、右当事者の行為は不法行為を構成するものであって、相手方は、右確定判決に対して再審の訴えを提起するまでもなく、右当事者に対し、右損害の賠償を請求することを妨げないと解されるが、右にいわゆる確定判決を訴訟当事者が不当取得したというには、訴訟当事者の行為と確定判決の取得との間に因果関係を肯認し得る場合でなくてはならないというべきである。

これを本件についてみると、記録によれば、前訴確定判決は、被上告人主張の上告人の被上告人に対する連帯債務につき、その第一審における上告人の利息及び遅延損害金の約定がない旨の供述を措信し得ないものと排斥し、被上告人代表者尋問の結果によって、利息の約定が月九分の割合であったことを認定したうえ、被上告人提出の借用証書及び貸付明細書の記載を検討して、利息の約定とは別に、遅延損害金についても月九分の割合によるとの合意があったとは認められないとしたものである。前訴確定判決の認定判断は正当として是認することができ、上告人の前記供述によってその認定判断がなされたものでないことは、前訴確定判決の理由説示に照らして、明らかである。しかるに、原審は、被上告人の本訴請求を認容するに当たり、前訴確定判決が前示のとおりのものであることを検討しないで、民訴法三三八条を適用して、右遅延損害金の約定の有無及び前記念書の作成経緯についての被上告人の主張を真実と認め、上告人が前記供述をしなかったならば、前訴において、右約定のあったことを前提とする給付が命じられたであろうことが明らかであると認定したものであって、原審の事実認定は、経験則ないし採証法則に照らして、相当とはいえない。被上告人提出の甲第一、第二号証は、前訴確定判決後に作成されたものであって、その信用性を勘案すれば、同証をもって、原審の事実認定を是認し得るものでもない。

三そうすると、原判決は、前記説示の点において、経験則違反、又は採証法則違背の違法があり、破棄を免れず、この点の違法をいうとも解される論旨は、理由がある。そして、既に説示したところによれば、被上告人の本訴請求は失当として棄却すべきものであり、結論においてこれと同旨の第一審判決は正当であって、被上告人の控訴は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、原判決を棄却し、被上告人の控訴を棄却することとし、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官村岡二郎 裁判官鈴木敏之 裁判官滝澤孝臣)

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